クギヌキハサミムシ



 ハサミムシというのも面白い昆虫である。
 写真はクギヌキハサミムシForficula scudderiという。オスである。オスのハサミにはクワガタムシの大顎のように個体変異があり、もっと短いハサミのものもいる。
 このクギヌキハサミムシは、大型のハサミムシで、発達したオスのハサミがかっこいい。体長は3センチほど。
 雑食性で、植物はもちろん、アブラムシなんかも食べるようだ。蛾の幼虫なども捕食し、かつては養蚕業の害虫とされていたこともあるという。


 ハサミムシ類もマイナー昆虫のひとつである。夜行性種が多く、落ち葉の下や石の下などに隠れていることが多いので、人目に付かず、一般にも認知度が低い。実はよく観察して歩くと、花や葉の上にいたりしてなれれば見つけるのは難しくないのであるが。色味が地味な種類が多いのも、原因のひとつかもしれない。
 特徴的なハサミを除いて地味な外見のハサミムシ類であるが、メス親が卵の保護をするという、生態的な面白さがある。幼虫を防衛した母親はやがて力尽き、最後の勤めとしてその身体は幼虫たちの糧となる。自然の驚くべき能率主義か。
 世界には千数百種類もいるというが、日本にいるのは20種前後程度。


 ハサミムシのことを英語ではearwigと言うが、これはこの虫が人間の耳の中に侵入して悪さをするという迷信から来たものである。ハサミの故か、なにやらおっかない虫に見えたのであろう。
 その印象は洋の東西を問わず、『和漢三才図会』に、中国の博物書『本草綱目』や兵書『武編』にはハサミムシの毒にあたったときの対処法が記されている、ということが紹介されている。『本草綱目啓蒙』の小野蘭山先生は慎重で、『本草綱目』にある「蠖[虫叟]という虫は、ハサミムシのようだけれど、ハサミムシは人の害になるということを聞いたことが無いのではっきり断定することができない」、と記している。


(撮影:2009年8月8日:円山)