カメムシってなんなのさ


 小生をはてなに導いたkiki師匠から、「虫のトリビアをやれ」と命令が下った。
 そもそもトリビアtriviaとは、文法・修辞・論理の三学問のことで・・・という誰にも突っ込んでもらえそうにないボケはすぐに撤回することにして、「つまらないもの」「平凡なこと」さらには「雑学的な事柄」をさす言葉である。この「雑学的」というのが非常に難しいのであって、こちらとしては曲がりなりにも「昆虫学」に沿おうと躍起になっているのである。
 と語源にこだわっていても文章が長くなるだけであった。要は虫の話題で「へぇ」と言わせろ、ということなんであろう。


 まじめに研究生活を送っている方にとって失礼の感が無きにせよ、学問的な内容をエンターテイメントと見る視点を小生は愛する。学問という営為そのものが、人間の好奇心に端を発している以上、この両者の相性がぴったりなのは当然である。
 かつて、ヨーロッパ人をして世界征服にまで駆り立てたその欲望は、テレビの前で「へえ〜」とか言うほどに小粒になってはいるようだが。というのは詭弁で、昔も今も庶民はおおむね学問的情熱とは無縁なのであった。そういう意味では、気軽に人のふんどしで相撲を取れる現代は、いい時代なのであった。ここのブログを読めば得心していただけるであろう。


 トリビアルかどうかはわからないが、今後ここを読んでいただく上でも重要になりそうな、カメムシの分類のざっくりしたところを書いておこう。細かい部分にまで渡ると切りがないので、かなり強引にまとめてしまう。
 カメムシと一口に言うが、実のところこのグループはきわめて多様性に富んでおり、一筋縄にはいかないんである。
 大枠のところで、ここでの小生の立場は「カメムシ=異翅目」というものである。
 伝統的な日本の分類学は、「カメムシセミ半翅目」という分類わけだった。その中で「カメムシ=異翅亜目」「セミ=同翅亜目」と段階分けしていたのが、アメリカの昆虫学者を中心として「亜目じゃなくてもう別のグループってことでいいんじゃね?」という考えが現れてきたのである(強引すぎ?)。
 現在では自然に「カメムシ目」「セミ目」として分けられたりするが、まだはっきりとした結論が、共通見解として出たわけではない。


 現在カメムシは、だいたい75のグループ(科)に分けられている。
 形態も、大きさも、生活様式も実に様々であるが、大雑把に言って陸生のカメムシと水生のカメムシに分けることも可能である。
 我々が普段「カメムシ」といってすぐに思い浮かべるのは、陸生のカメムシの中でもわずか2〜5科程度の、ごくごく一部である。さらに、水生カメムシ類はそれぞれがよく知られている割に、カメムシの仲間であるという認識がない場合が多い。
 つまり、アメンボ、タガメタイコウチミズカマキリなどなどが水生カメムシ類であって、これらも言ってしまえばカメムシなのである。アメンボは飴のようなにおいがする(つまり臭腺物質)細長い昆虫だから「飴ん棒」なのであり、タガメはその香りが好まれタイ等で人気の調味料(メンダー)となる。


 以下に日本に産する諸科をリスト化して概観してみよう。


日本産カメムシの科リスト
陸生カメムシトコジラミ下目
Cimicomorpha
サシガメ科Reduviidae53
フタガタカメムシ科Microphysidae1
カスミカメムシ科Miridae159
グンバイムシ科Tingidae69
マキバサシガメ科Nabidae21
ハナカメムシ科Anthocoridae26
トコジラミ科Cimicidae1
カメムシ下目
Pentatomomorpha
ヒラタカメムシ科Aradidae30
ツノカメムシ科Acanthosomatidae22
ツチカメムシ科Cydnidae20
ノコギリカメムシ科Dinidridae4
カメムシ科Pentatomidae77
マルカメムシ科Plataspidae12
キンカメムシ科Scutelleridae8
クヌギカメムシ科Urostylidae5
イトカメムシ科Berytidae4
ナガカメムシ科Lygaeidae133
メダカナガカメムシ科Malcidae2
チビカメムシ科Piesmatidae2
オオホシカメムシ科Largidae2
ホシカメムシ科Pyrrhocoridae7
ホソヘリカメムシ科Alydidae11
ヘリカメムシ科Coreidae26
ヒメヘリカメムシ科Rhopalidae7
ツノヘリカメムシ科Stenocephalidae2
水生カメムシクビナガカメムシ下目
Enicocephalomorpha
クビナガカメムシ科Enicocephalidae2
ムクゲカメムシ下目
Dipsocoromorpha
オオムクゲカメムシ科Ceratocombidae2
ムクゲカメムシ科Dipsocoridae1
ノミカメムシ科Schizopteridae3
アメンボ下目
Gerromorpha
ミズカメムシ科Mesoveliidae4
ケシミズカメムシ科Hebridae2
イトアメンボ科Hydrometridae5
サンゴアメンボ科Hermatobatidae1
カタビロアメンボ科Veliidae19
アメンボ科Gerridae23
タイコウチ下目
Nepomorpha
コオイムシ科Belostomatidae5
タイコウチ科Nepidae6
アシブトメミズムシ科Gelastocoridae1
メミズムシ科Ochteridae1
ミズムシ科Corixidae22
コバンムシ科Naucoridae1
ナベブタムシ科Aphelochiridae3
マツモムシ科Notonectidae9
マルミズムシ科Pleidae2
タマミズムシ科Helotrephidae1
ミズギワカメムシ下目
Leptopodomorpha
ミズギワカメムシ科Saldidae16
サンゴカメムシ科Omaniidae1
アラメカメムシ科Leptopodidae0(1)


 右側の数字は「日本産昆虫目録データベース」に登録されている種数である。
 詳細はともかく、相当多様性に富んだグループであることはわかっていただけたかと思う。途中から暴走して、書き出しが台無しになってしまったとさ。