マダラガガンボ


 ただでさえカメムシ好きということで変な目で見られるだろうに、さらにこんなことを言うと構ってもらえなくなる可能性があるが、もともとあんまり相手にしてもらえないので、気にせず言うのである。
 カメムシと違い、別段勉強しているというわけでも、標本を集めているというわけでもないのだが、ちょっと気になるグループがもうひとつある。
 それが双翅目。ハエ、カ、アブなどの仲間だ。
 中でも特に気になるのはムシヒキアブの仲間で、これは少し採集したりもしているが、今回登場するのは別の種類である。


 野山で見かけると無意味にテンションがあがる、そいつの名はマダラガガンボTipula coquilletiガガンボ類で最大級の、見栄えのする昆虫である。実のところ、双翅初心者の小生には、写真の個体が本当はダイミョウガガンボPedicia daimioかもしれないという不安があったりするのだが。
 とにかくその存在感たるや只者ではない。幼虫は渓流の石の下で生活し、植物の根などの腐食質や動物の死骸などを食べて成長する(と偉そう言っても、実際に見たことがあるわけではない)。成虫は短命で摂食活動もあまり活発ではないという。


 どうもガガンボというやつは、実像とは乖離して無闇と嫌われている感じがある。カに似ていて、それよりも大きく、更に脚が長いのが原因であろう。
 そもそもガガンボという名称は、「蚊の母」をあらわす「かがんぼ」の転訛したものである。昔の人にとっても、ガガンボはカに似た昆虫であったのだ。方言には「カノオバ」なんて名称もある。ちなみに英語圏では、「Daddy long leg(あしながおじさん)」という素敵な名前を頂戴している。但し、この名称はザトウムシ類にも使用されることがあるので要注意である。ガガンボだけを指す名称としては「Crane fly」があるが、このcraneが重機のクレーンなのか鶴なのかはよくわからない。
 そのルックスのほかにも、彼らの光に集まってくる習性がある。人の眼に触れやすいというのも問題を大きくしているに違いない。


 最後に、誤解されがちであるが、ガガンボ類に吸血性のものはいない。だからといってこの形状に嫌悪感を覚える人間にとっては、マダラガガンボは悪夢以外の何ものでもないだろうけれど。


(撮影:2009年8月11日:手稲山