ニセクロツヤチビカスミカメ


 2009年7月30日と翌々日の8月1日、円山動物園の近くにあるオニグルミの木から、黒く小さなカメムシを数個体得た。
 体長わずかに3ミリほど。形状からカスミカメムシの仲間であることは明白であった。
 それがイラストのニセクロツヤチビカスミカメSejanus juglandisである。
 本種は一般的にオニグルミから得られるが、同所的によく似たクロツヤチビカスミカメSejanus potaniniと混棲しており、紛らわしい。相違点としては爪状部にある明色斑で、クロツヤチビカスミカメではこの淡色部がなく黒一色である。また、ニセクロツヤチビカスミカメでは頭部と触角第二節が長いことも区別点としてあげることが出来る。尚、今回採集したものは全てニセクロツヤチビカスミカメであった。
 この属のカスミカメムシは、日本に5種類分布しており、全日本的に見れば検索キーが必要となるかもしれないが、北海道には上述の2種しか分布していないので、爪状部の白い模様の有無で判断がつく。
 念のために、この属の日本産種の検索キーが載っている論文をあげておく。ニセクロツヤチビカスミカメの原記載論文でもあり、一見の価値あり。CiNiiでダウンロード可能である。

Yasunaga, T.(2001) A Review of the Phyline Plant Bug Genus Sejanus Distant in Japan (Heteroptera: Miridae: Phylinae), with Descriptions of Three New Species., Entomological Science, 4(1):121-126


 ニセクロツヤチビカスミカメに限った話ではないが、小型のカスミカメムシを標本にする際、酢酸エチルに長くあてていると関節部などが硬化してうまく整形することが出来ない(もとより3ミリ内外のカメムシを整形する根性が小生にあるかは別の問題である。それでも触角や脚を体の下面に丸めるように固まった標本はほとんど無駄であろう)。
 そこで推奨される殺虫方法は冷凍である。
 PP管などに一匹ずつ生かして持ち帰り、冷凍庫に放り込むだけである。金属光沢のある甲虫類ではよく使用される方法で、体色が色あせるのを防げるだけでなく、上記のように柔らかいままマウントに持ち込むことが出来る。ただし、各種薬品類にあるような防カビ作用は望めないので、注意が必要である。
 いずれにしてもカスミカメムシ類のような体構造の脆弱な昆虫は、採ったその日にマウントをするのが最大のコツである。採り過ぎないことが大事、かもしれない。

ご挨拶

 ここには埒もない「虫」の話を、気が向いた時に書いていこうと思う。
 知っていても何の得にもならないし、誰かに感心してもらえるということもほとんどない。そんな話だ。
 書いているほうも暇つぶしで書いているものだから、読む人にもそんなおおらかな姿勢でいてもらいたい。
 小生は「専門家」ではない。だから遠慮なく極論や誤謬を人目に晒すことが出来る。
 なんという無責任なことを言うのか、と思われるかもしれないが、事実なので仕方がない。間違ったことを後から書き直したりすることもあるかと思うが、ご容赦願う次第である。


 あえて漠然とした「虫」という言葉を使った。
 足がたくさんあったりなかったり、カサコソ動いたりニョロニョロしていたり、飛んだり這ったり跳びあがったり、感覚的に言って「虫」とされる生物は何でも好きである。
 なかでも昆虫類はおはなしの主要なテーマになるはずである。さらにその昆虫類のなかでも半翅目カメムシの仲間)は、小生が最も愛し且僭越ながら「勉強のようなことをしているといえるかもしれないグループ」なので、話題の大半を占めてくる可能性がある。
 「なに、あの臭い虫か」と思われた方もいるであろう。もっと露骨にひいた人だっているはずだ。それはそれで結構。慣れっこである。もしお暇なら、「あなたの知らない世界」を見る感覚でちょっとの間お付き合いいただけたら幸いである。


 唐突かもしれないが、小生は北海道札幌市に住んでいる。生き物のことを書くということで、これは非常に重要な情報で、あえてここに付言しておく。おはなしの内容は、主にこの地方を舞台として書かれることになるだろう。


 おはなしの他に、ここには写真やイラストも登場する(はずである)。
 写真はおおむねRicohCaplio GX8という古いデジカメで撮ったものである。はっきりいって人に見せるほど結構な出来ではない。Caplioシリーズはズーム性能のよい素晴らしいデジタルカメラで、写真がしょぼいのは全面的に撮った人間のほうの責任である。
 イラストも下手の横好きで書いたもので、けして科学的な資料になるものではない。出来るだけ嘘は描かないように心がけているが、いいかげんに描いちゃったりすることがないとは断言できかねる。


 最後に、記事のほとんどは日記形式で書かれないと予想される。
 すべてにおいて虫捕りが優先され、取った虫の整理や正体解明がその次。さらに写真の撮影やイラストを描いたりやらがあって、はじめておはなしという優先順位である。数ヶ月前(もしかしたら数年前)のトピックスが発作的に出てきたりもするであろう。
 すべての話題、写真、イラストには採集/観察日を添えるようにするが、そんなわけなので、どれをどの順番で読んでも、読まなくてもかまわない感じであると、ご理解いただければよいかと思う。


 まずはご挨拶まで。
                                                              鬼灯庵亭主蟲吉